忘れ得ぬことども

SFと私

 まともにSFを読まなくなってずいぶん経ちます。
 小学生の頃は、児童向けのリライト版の海外SFのたぐいを結構読みました。アシモフベリャーエフブラッドベリーなどの作品に親しんだ記憶があります。ペリー・ローダンレンズマンなどのいわゆる宇宙ヒーローものより、科学考証のしっかりしたものを好んだようです。昔は理科少年だったんだよなあ。
 中学生時代は邦人作家のものに転向し、小松左京筒井康隆の作品はかなり読みました。平井和正ウルフガイものもひと通り読んで、エッチなシーンにどきどきしたのもこの頃です。この時期になるとどちらかというと超能力者ものに惹かれ、筒井氏の七瀬シリーズなどは愛読しました。
 高校生くらいになると、あまり読まなくなりました。どういう心境の変化だったか、よく憶えていません。荒唐無稽な空想物語がいやになった、ということではなかったように思います。どちらかというと、SFめいた味のあるノンフィクションや啓蒙書をブルーバックスなどで読む方が好きになったのではなかったかしら。異次元、亜空間、念動力、タキオン等々といったSFタームには今でも胸がときめきます。

 どうも、私は考え方が窮屈なようで、異世界や異星の人間や土地の名前がヨーロッパ語風になっているのが気になってしまうとか、遠未来なのに社会体制が現在とさして変わらない(「帝国」だの「共和国」だのの存在など)のが不自然に思えてしまうとか、読んでいるとそんな枝葉末節の違和感を覚えてしまって、それがSFから遠ざかるひとつの要因になったようでもあります。アニメやゲームならそれほど気にならないのですが、活字媒体でそれをやられると、どうにもひっかかるのです。

 超能力ものならどうかと言うと、一定の節度を保った作品が少なくなったのが気に入りません。擬似科学的で構わない(思念波なりタキオンなり)から、なんらかの理屈付けが欲しく、その理屈に則った形で使用して貰いたいのですが、なんでもありになってしまうと興味を失います。理屈に則るというのは、超能力であってもなんらかの限界が必要だということです。
 隆慶一郎の時代小説は好きなのですが、未完の遺作となった「花と火の帝」では、まさにこの手の、なんでもありな超能力という最悪の形(忍者ものであるのにテレポーテイションまで使ってしまってはねえ……)になっていて、愕然としました。こんなものを持ち出した作者の真意がいまだにわかりません。
 実は私も昔、近未来超能力SFのごとき小説を試作したことがあるのですが、思念波をESP波とPK波に分けたり、ひとりの登場人物の持つ能力を1種か2種に限定したり、もっともらしい理屈をくっつけるのに苦労しました。「サイエンス」フィクションである以上は、それくらいの節度は保って欲しいと考えるのは、いまどき古いのでしょうか。

 前に書きましたが、大学時代くらいから星新一にはまったものの、SFという意識はあまりありませんでした。実際、星さんの小説の中で、SFの占める割合は決して多くありません。ミステリーやファンタジーの範疇に属するものの方がずっと多いと言えるでしょう。また、宇宙人やUFOが出てくるからSF、とも言い切れないものがあります。

 ファンタジーと言えば、最近はようやくファンタジーがSFから独立したジャンルとして認められてきたようです。しかも、本来のSFを駆逐するほどの勢いで増え続けています。
 異世界もしくは異星を舞台にした、剣と魔法の騎士物語。ファンタジーというのは別にそればかりではないはずなのですが、RPGの流行の影響もあってか、そんなステレオタイプが量産されています。まあこの種のものをSFと呼ばなくなったのは何よりだと思いますけどね。

 科学考証をきちんとおこなったハードなSFがあまりはやらなくなったのは、近年の理論科学の発展が急すぎるという理由があるかもしれません。フィクションよりも、現実の科学の方がどんどん先へ行ってしまっているのだから、SF作家の立つ瀬はないでしょう。
 最新の科学知識を採り入れるということはもちろん可能でしょうが、それをそのまま書いても、読者にはさっぱりわからないため、まずそこの解説をしなくては話にならないという事態が発生します。これではストーリーを発展させる余裕がありません。それこそブルーバックスでも読んだ方がましだということになりかねないのです。
 一般の読者に理解できて、なおかつ小説の進行を阻害しない科学理論となると、せいぜい特殊相対性理論止まりかもしれません。アインシュタインが発見して、間もなく100年になんなんとしている理論です。量子論になるともうついてこられない読者が多いのではないでしょうか。まあ、ハードSFを好む読者ともなれば、そのくらいはついてこられると考えるべきなのかな。

 たまにはまた読んでみようという意志がないではないのですが、何か「この一冊」と言えるような本があるでしょうか? お奨めSFがある方、ご教示願えればありがたいです。

(1999.10.14..)

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