忘れ得ぬことども

最後の謝恩会

 今まで勤めていた短大の、最後の謝恩会があったので行ってきました。
 「勤めていた」と完了形で言ったり、「最後の」とつけたりするのは、その短大自体がこの春でなくなってしまうからです。
 全国的に、短大というものがはやらなくなってきた昨今の時流に洩れず、私の勤め先も四年制になり、短大は発展的廃校ということになりました。昨日の卒業式で出た学生が、最後の卒業生となったわけです。
 それとともに、教職員のリストラも行われました。
 私はそこでは保育科でピアノと童謡歌唱を教えていたのですが、保育科は四大では「保育心理学科」となり、しかも「心理」の方により大きなウェイトが置かれることになったとかで、音楽などの実技関係がだいぶ整理されて、私のような非常勤講師は要らないということになってしまいました。で、私も失職とあいなったわけです。
 もっとも、いくら大学の方が心理に力を入れようと、保育心理学科に来る学生としては保育者免状や幼稚園教諭免許を手に入れたいと思っているに違いなく、その場合に実技系をそんなに削ってしまってよいのだろうかという疑問は残ります。ピアノや歌は、多人数のクラス授業で身につくようなものではありません。
 そこの短大の卒業生はかなり職場でも評判がよく、このご時世に就職率が90%以上という高率を誇っていましたが、実技が減らされた今後はどうなるか、最初の卒業生が出る年が見ものです。

 それにしても、授業中はほとんど小学生みたいな子供っぽさを発揮していた連中が、謝恩会ともなると色とりどりの和服やドレスに身を包み、急に大人びて見えるのは不思議なほどです。
 4月から、この連中が方々の幼稚園や保育園などに行って、子供たちから「先生、先生」と呼ばれるのだと思うと、心許ないような気もしますが、それでも彼女らの実習報告を読んだりすると、ひとりひとりはかなりしっかりした考えを持っているようでもあり、頼りないと思うのはこちらの先入観なのだろうなと考え直します。
 自分だって、学校を出たての頃は周囲からは頼りなく見えていたに違いないのだし、今だって頼もしいかといえば全然そんなことはなさそうでもあり、誰だって、補助輪外したての自転車乗りのようにふらふらしながら大人になってゆくのです。まあ、心配しなくても大丈夫なのでしょう。
 彼女らの、それからこの春社会に出る皆さんの、前途に希望あれ。
 ……さしあたって短大をクビになった私が、春から生活してゆけるかどうかの方が心配だったりして……(^_^;; 

(1998.3.13.)

【後記】学校を辞めて生活が成り立つかどうか心配だったのですが、学校がなくなったらよほど暇になるかと思うと、全然そんなことはなく、忙しい毎日です。結構なんとかなるものだなと思います。

(1998.9.30.)

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