忘れ得ぬことども

白鷺音楽事務所開設に寄せて

 当店の常連さんでもある白鷺皐さんが、音楽事務所を始めました。
 トラック野郎の仕事に就きつつ、セミプロのMIDIエンジニアとして活躍し、私の「月姫の舞」もアレンジしてくれたりしていましたが、このたびトラック野郎を廃業して、独立したとのことです。私は最初、ここの「コンビニエンスストア」と同様、ネット上だけの仮称かと思ったのですが、どうやら本気。当分はネットを利用した音楽ソフトの販売などを行ってゆく予定だそうです。
 人が、新しい一歩を踏み出すのを見るのはすがすがしいものです。とりあえず安定した職を捨てて、自分の好きな道を歩いてみるというのは、この不況のご時世に無謀だという人もいるかもしれません。しかし、むしろ不況時だからこそ、どうせ何をやってもぱっとしないのだから、好きなことに邁進する方がよい結果を得られるとも考えられます。
 大体私は、このたびの不況は、単に景気が悪いというだけの話ではなく、世の中全体が変わり始めている前兆だろうと考えています。いわば、スケールメリット(大企業による大量生産が有利な状態)の時代が終焉を告げ、これからは中小、ないし個人企業、あるいは全然企業でない組織、そういったものが根を張り、芽吹き、伸びてゆく時代で、その過渡期の現象として、大企業もしくはそれに依存している中小企業などの間に寒風が吹きすさんでいるというのが、目下の世相なのではないでしょうか。
 こういう時代に、「安定」はあり得ません。優良企業と言われる会社に勤めても、いつリストラされるかわかったものではなく、個人個人が、
 ――自分は本当は何をしたいのか。
 ――自分が生きるために何をすればいいのか。
 ということを真剣に考えなければならない世の中になっていると言えるでしょう。
 苦しいけれど、意欲のある人にとってはこれほど面白い時代もあまりないだろうと思います。
 そういう意味で、白鷺さんの決断には喝采を送りたいと思うのです。
 なお、彼は私の曲も売り物にしてくれるのだそうで、ありがたいお話です。目下予約受付中らしいので、ぜひ白鷺さんへメールしてお問い合わせになってください。私としても、自分の音楽活動領域が拡がることになって喜ばしい限りです。
 最初に書いた共同制作のページにせよ、この音楽ソフトの話にせよ、ネットをやっていたからこそ始まったことで、つくづくインターネットを始めてよかったなと思うこのごろであります。

(1998.3.1.)

【後記】その後白鷺さんは、ネット仲間と電撃的な婚約を行い、さらにあれよあれよという間に入籍という次第となりました。結婚するとなると、なかなか好き勝手もやっておられず、音楽事務所は僅か半年あまりで閉鎖ということにあいなりました。
 WEB上の事務所は続けるそうですが、なんだか上のように持ち上げた私としては、肩すかしを食った気がしないでもありません。

(1998.9.30.)

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