忘れ得ぬことども

首都圏大雪

 1998年1月8日の東京地方は、昼から降り始めた雪が、夜まで降り続きました。
 夕方頃には早くも、転んで怪我をした人のニュースが入り始めました。雪国の人から見ると、だらしないと思われるでしょうが、雪道を歩くにはそれなりの慣れと心構えが必要です。しかも、東京の人は普通、雪道用の底をつけた靴を履いておりません。特に今日のように、昼から降り出した場合、普通の靴で朝出かけてしまい、帰りには雪道になっていて、転んでしまうというケースが多いと思われます。
 こんな日には外出したくないのですが、指導している合唱団の初稽古兼新年会があって、夕方から出かけなければなりませんでした。合唱団の人も、できれば急遽お休みにしたいところだったようですが、新年会のため、仕出しの料理を頼んであってしまったので、そうもゆかなかったのです。
 私は埼玉県のいちばん東京寄りにある川口市に住んでいます。合唱団の練習場所は東京都でいちばん埼玉寄りの板橋区です。隣接しているわけなので、すぐ行き来できるかというとそうはゆきません。うちから板橋の練習場所までは、JR京浜東北線川口駅からひと駅乗って赤羽で下り、赤羽駅のすこぶる階段の多い乗り換えをし、埼京線池袋へ出ます。池袋ではラッシュアワーの人の群れを泳いで東武東上線に乗り換え、3つ目の大山駅で下ります。所要時間は約45分というところです。
 45分かけて、練習場所へ行って、めでたく初稽古と新年会を済ませました。この間、ずっと雪は降り続き、21時過ぎ、外へ出てみると、すっかり銀世界です。
 さて、帰ろうと思って、また大山駅に向かいます。ふだんは自動車やバスで通っている団員も、今日は電車を使うようです。みんなで駅へ来てみると、電車が停まっていました。乗り込んでみると、一向に動きそうにもありません。そのうち、運転を休止するというアナウンスが入りました。
 鉄道は、道路に較べるとはるかに雪に強い交通機関です。道路が不通になってもニュースにはなりませんが、鉄道の不通は大きく取り上げられます。
 しかし、それはそれなりの対策をとってのこと。対策を講じてある東北新幹線上越新幹線が積雪で運休ということは滅多にないのに、なんの対策もしていない東海道新幹線は、関ヶ原の積雪地帯でよく止まります。
 首都圏の鉄道も、雪を想定しては造られていません。そのため、雪が降るとたいてい大騒ぎになります。
 東上線の電車が止まってしまったので、われわれは近くを通っている都営地下鉄三田線の、板橋区役所前駅まで歩きました。さすがに地下鉄で、平常通り運転しています。
 しかし、家に電話をかけていた人が、家族から、JR各線が止まってしまったというニュースを仕入れました。
 合唱団員は大体板橋区民ですので、なんとか帰ることができたのですが、私はそうはゆきません。やむなく私は、普通なら三田線の巣鴨山手線に乗り換えれば済むところを、地下鉄を複雑に乗り継いで、極端な大回りをせざるをえませんでした。
 かくて、なんとか営団地下鉄南北線王子の駅まで辿り着いたらすでに23時半に近かったのです。王子から京浜東北線に乗れば、川口までは3駅に過ぎません。
 幸い、京浜東北線は動いていました。JRも部分的に復旧したのでしょう。
 プラットフォームに上がると、丁度電車が出てしまいました。残念でしたが、次の電車もすぐ来て、しかも雪のためみんな早めに帰ったのか、比較的すいていて、坐ることもできました。
 やれやれと思って腰を下ろしましたが、赤羽駅まで来て、またも電車が動かなくなりました。
 なんでも、先の方で、線路に立ち入った者がいるらしく、そのため安全確認が完了するまで発車できなくなってしまったとか。雪でダイヤが乱れたので、しびれを切らして線路を歩き出したのかもしれませんが、迷惑な話です。各駅に電車が停まっているので、先へ行けないのです。
 さっき王子駅で逃した電車に乗っていれば、電車が止まるにしても川口駅で止まったはずで、私は平然と帰れたのですが、結局、赤羽を出るまでに、約1時間半を待たされました。
 ふだんなら、私はこんな状態になればさっさと下りてしまい、ひと駅くらい歩いて帰るのですが、雪道ですし、坐れてしまっていたので、その決断が下せなかったのです。
 というわけで、通常45分で帰れる家路に、4時間を要して、1時20分頃ようやく帰宅できました。
 雪国の人から見れば、全く笑止千万な騒ぎですが、大都会の弱点ではあります。
 耐雪設備をしっかりしろといいたいところですが、年に1度か2度の積雪のためにそれだけの装備を投入するのも困難でしょう。難しいところです。 

(1998.1.9.)

 東京地方は、またも雪です。
 ただ、先週の大雪があったせいか、人々は比較的落ち着いているようです。何事も、経験ですね。
 成人式を迎えた人たち、特に今日のために振り袖をあつらえた女性たちはお気の毒でしたが、しかし考えてみれば、雪国の成人式だって、振り袖くらいは着るわけで、雪のためにそれを汚してしまうことを怖れるのなどは、やはり馴れていないせいではないかと思います。
 雪国の人たちは、15センチくらいの雪で何をうろたえているのかと笑うかもしれませんが、実は、東京に降る雪はなかなか侮れないものがあります。つい一昨日も、ネット仲間のよへい☆クンが、滑って転んで肋骨を2本折ってしまいました。彼は北陸の産で、雪には馴れているはずなのです。
 雪が降り、翌日溶けて、さらにその晩凍りつきます。気温が比較的高いので、その凍った路面が、その次の日には表面だけ溶けて、非常に滑りやすくなってしまうのです。気温の低い雪国では、凍結したところの溶け方が少ないので、それほど滑りません。また、履く靴も違っています。
 よへい☆クンも、雪なら馴れていると考えて、東京のこの程度の雪なんて大したことはないと舐めてかかっていたのかもしれません。肋骨を折ったので、しばらくは好きなラッパも吹けないでしょう。ご愁傷様です。
 今年はずいぶん太平洋側に雪が多いようですが、実はこれ、暖冬のせいだというから意外です。
 暖冬ということを別の観点から見ると、いわゆる「冬型の気圧配置」にならないことを意味します。「西高東低」というあれです。
 西の方の大陸から、湿った空気を含む高気圧が張り出してきます。太平洋上には低気圧があるので、そこに空気が流れ込もうとします。しかし、途中には日本列島を貫く山脈が通っており、「途中下車」第1回に書いた通り、雪雲というのは山越えが非常に苦手で、高々2000メートル程度の山も越えられず、そこにぶつかって、湿った空気をあらかた振るい落としてしまいます。それが日本海側の大雪です。
 身軽になった大陸性高気圧は、乾いた冷たい風となって山を越え、太平洋側に吹き下ろします。典型的な冬型では、太平洋側が北風の吹きまくる晴天となりますが、それはこのためです。
 ところが、今年の冬はそうなっておりません。エルニーニョ現象のためらしいのですが、とにかく太平洋側にも比較的温かい湿った空気が頑張っていて、そのため暖冬になっています。しかし、これが北からの寒気団と接触すると、重たい、湿った雪となって落ちてくるというわけです。
 私の知識は曖昧なので、以上の記述には多少間違いがあるかもしれません。詳しいことは気象関係のサイトでもご覧いただきたいのですが、とりあえずそんなことで、「暖冬のせいで雪が降る」というパラドックスが発生しているという話です。
 なんにしても、怪我をしないように気をつけましょうね♪

(1998.1.15.)

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