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 国立埼玉病院附属看護学校というところで音楽を教えています。 
 看護学校になぜ音楽が必要なのか? 
 よく訊かれますが、実は私も不思議です。 
 音楽療法とかいうものは確かにあるのですが、ナースが考えるべきことではないし、第一そんなに専門的なことはやらず、適当に歌を歌って終わってしまいます。 
 しかも、通年ではありません。前期に5回、10時間の授業があるだけです。 
 「儀式の時に校歌が歌えればそれでよいのです」 
と、看護学校の先生に言われました(^_^;; 
 まあ、生徒たちのためのリラックスタイムと考えてやっています。 
 儀式、というのは、入学式、卒業式、そして看護学校ならではの、戴帽式というのがあります。 
 春に入学した1年生が、はじめてナースキャップをかぶることができるようになる儀式です。 
 この戴帽式をいかに看護学校の新入生が待ち望んでいるかは、外部の人間にはなかなかわからないかもしれません。白衣はすでに着ているものの、「白衣の天使」になるためにはどうしてもナースキャップをかぶらなければならないのです。 
 儀式はなかなか厳粛で、ひとりひとり壇の前に進み出て、教官からキャップをかぶせて貰います。さらに、キャンドルサービスがあります。1本ずつろうそくを手に持って、ナイチンゲール像に掲げられた大きなろうそくの火を拝受し、整列したのち声をそろえて「ナイチンゲール誓詞」を読み上げます。 
 看護学校の生徒といっても、他の学校の学生と別に違いはないので、授業中の私語は多いし、なかなか言うことも聞かないし、 
 ――おまえら、これでほんとに人の命を預かれるのかあ! 
 と叫びたくなることもしばしばですが、さすがに儀式の時になると、みんな神妙な顔つきになり、キャップをかぶせられると結構一人前のナースに見えてくるから不思議なものです。儀式とか、制服とかいうもの、堅苦しかったり古くさかったりと、嫌う人も多いですが、こうしてみると捨てたものではないなという気もします。 
 その戴帽式が、今年は10月31日に行われ、今日(30日)はそのリハーサルに行って来ました。非常勤講師に過ぎない私がリハーサルにまで出席するのは、戴帽の儀とキャンドルサービスの間、音楽の先生として、BGMをピアノで鳴らしていなければならないからです。それに校歌の伴奏(^_^)。 
 
 ところで、ナースネタのドラマやマンガもかなりありますが、ご多聞に漏れず、内部から見ると、噴飯ものの内容であることが多いとか。前にフジテレビで放映していた、観月ありさ主演の「ナースのお仕事」は、私の高校の同級生がチーフディレクターをやっているので、擁護したくなりますが、やっぱり落第点らしい。 
 ところが、「ビッグコミックスピリッツ」不定期連載の佐々木倫子作「おたんこナース」だけは、看護学校の先生方にも大評判でした。実はこのマンガ、私が先生方に勧めたので少し得意なのですが、描かれているナースの生態は非常にリアルだそうです。佐々木倫子さんといえば、「動物のお医者さん」で北大獣医学部の志望者を急増させたという凄腕の持ち主。何を描いても 
 ――あるある…… 
 と思わせてしまう才能は並みのものではありません。初期の「ペパーミント・スパイ」なんか一見荒唐無稽に見えて、 
 ――本当にスパイ養成学校というようなものがあったとしたら、実際にはこんな感じじゃないのかな? 
 という気がしてしまうからおそろしい(^_^)。 
 ちなみに、「動物のお医者さん」の中で、ハムテルのお母さん(ソプラノ歌手)が札幌で「トスカ」というオペラを上演する話がありますが、あの本番当日の歌手の描写もあまりにリアルで大笑いしてしまいました。佐々木さんには、今度ぜひ音大ネタを描いていただきたいと思う私です。 
 
(1997.10.30.)
 
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