忘れ得ぬことども

裏磐梯の休日

I

 今年(2008年)のゴールデンウィークは、私はあまり出歩かずに、編曲仕事などをこなしながら過ごしておりましたが、1日・2日にかけて2日間だけ旅行をしてきました。
 この2日を選んだのは、マダムも私も都合が良かったからではありますが、結果としては非常に良好でした。
 まず天気が良かった日であること。2日の夜になって少し雨が降りましたが、行程の大部分は好天に恵まれました。このゴールデンウィーク中、皮肉なことに平日のほうが天気が良く、肝心の休日に雨模様のことが多かったようです。
 平日であったため、行き帰りや旅先がさほど混んでいなかったのもメリットでした。そうは言っても、ゴールデンウィーク中とあればどこへ行っても混んでいることが多いのですが、今年は30日・1日・2日という合間の日が、全く週末にひっかからないまるっきりの平日であったのが幸いしたようです。有給休暇をとって海外などへ出かける人は、とっくに出かけたあとでしょうし、休暇を取らない人は3日からの4連休に遊ぶつもりでしょうから、30〜2日の3日間は、ちょっとした空白になってしまっていたのでした。
 私たちの行ったのは、裏磐梯にあるペンションのひとつでしたが、予約する時に確認したところ、29日も30日も満室、3日からも満室になっており、1日と2日だけが空室有りということになっていました。実際行ってみると、空室有りどころか、1日の晩は私たち以外に客はひとりも居なかったので驚きました。われながら要領が良かったものだと感心します。

 裏磐梯への拠点は猪苗代ということになります。今回は私自身の「列車を乗り継いで……」という嗜好は抑え、いちばん楽に行ける方法を調べたところ、会津方面へ直行する高速バス「夢街道会津号」が見つかりました。猪苗代でも停車するようです。それより何より、乗車場所がなんとうちからほど近い王子にあるではありませんか。始発は新宿なのですが、池袋と王子で乗客を拾って東北道に乗るのでした。王子から猪苗代はほぼ3時間半です。アクセスと乗り換え時間を考慮すると、東北新幹線から磐越西線を乗り継ぐというルートと、所要時間的にさえさほど遜色ないかもしれません。
 王子の高速バス乗り場は、駅から少々離れていたので、やや迷いましたが、駅員に訊いて無事に乗ることができました。新宿駅からここまで来るのが案外すいていたのか、バスは5分ほど前にすでに着いており、乗る立場としてはいささか慌てました。8時05分、定刻に発車。
 切符ではなく、インターネット乗車票というものを運転士に見せます。家でプリントアウトすれば済むので、全く最近は便利になったものだと思います。予約してあった座席は前から5列目の、バスの中央あたりの快適な席でした。
 羽生阿武隈のパーキングエリアで休憩があり、郡山のインターチェンジから磐越道に入って、大体予定通りに猪苗代のバスセンターに到着しました。バスはこのあと会津若松まで走ります。それを見送って、とりあえずJR駅の窓口へ。
 「会津ぐるっとカード」というフリーパス乗車券を受け取るためでした。会津地域の、バスのみならず鉄道(JRと会津鉄道)にまで、2日間乗り放題というスグレモノで、ネットであれこれ調べていてこれを発見した時には、
 「おお、これはスゴイ」
 と思わず叫んでしまったほどでした。1枚2600円ですが、裏磐梯に一泊してくるのなら完全に元はとれます。さらに、カードを見せればいろんな店や施設でも割引や特典があるようです。ずいぶんお得なフリーパスなのでした。

 猪苗代からは磐梯東都バスに乗ります。猪苗代側から見る磐梯山が表磐梯で、裏磐梯はその反対側というわけですが、裾野を廻って裏に回り込むのは案外簡単なようで、25分ばかりで裏磐梯ロイヤルホテルに到着します。途中、まだ雪のかたまりがあちこちに残っていました。1日の気温はかなり高く、北海道でも夏日だったというほどの日ですので、まだ雪があるというのが不思議な気がしましたが、この日がどちらかというと異常気象だったので、つい何日か前にはこの附近にも雪が降ったそうです。
 ロイヤルホテルでバスを乗り換え、今度は10分ばかりで裏磐梯高原駅に着きます。駅と言っても鉄道があるわけではありません。まあ裏磐梯観光のターミナルという感じでしょう。バス停近くの観光センターのようなところで食事をしてから、五色沼を散策しました。
 五色沼は、私は初めてではありません。指折り数えてみると、なんと4回目であったことに気がついて、自分でも驚きました。
 1回目は自分の記憶としては残っていません。乳児の頃に、両親に連れられて来たらしいです。その頃の写真を見たばかりですが、五色沼に来るとあって、父はその頃まだ高価であったカラーフィルムを使っていました。
 2回目は中学三年の時のことです。夏休みに友人と連れ立って、私としてははじめて、親抜きで長い旅行をしました。今は無き上越線の夜行鈍行、いわゆる「長岡夜行」で旅立ち、翌朝の只見線で会津に抜け、東北地方南部を一週間くらい旅したのでしたが、その途上で五色沼に立ち寄りました。
 3回目は十数年前で、指導していた合唱団のレクリエーションでこの辺を訪れ、やはり五色沼の遊歩道を散策したのでした。
 そして今回が4回目となります。同行のマダムははじめてとのこと。
 うろ覚えの記憶にある五色沼は、もう少し鮮やかに色とりどりであったような気もするのですが、今回は晴天とはいえ少々霞のかかったような空気であったせいか、青と緑のあいだで微妙なバリエーションがあるというような印象を受けました。まあそれにしても、こんなに近接した場所にある湖沼群が、これほどにひとつひとつ異なる水質を持っているというのは、自然の神秘としか言いようがありません。
 バスの時間がわりと迫っていたので、最後は駆け足気味になりましたが、気持ちの良い散策でした。

 裏磐梯は五色沼だけでなく、檜原湖をはじめとする大小さまざまな湖沼が点在している土地ですが、目当てのペンションは曽原湖という小さめの湖の近くにあります。
 電話をかけて予約した時、なんというバス停で下りれば良いのかを訊いたのですが、なんだか要領を得ませんでした。いろいろ問いただした挙句、確か「曽原通り」と言っていたはずです。下りれば300メートルくらいとも言っていました。
 それで曽原通りというバス停で下りたのでしたが、どこにあるのか皆目見当がつかないので困りました。マダムが自分の携帯電話(docomo)を出してみると、なんと圏外。しかし私のはアンテナ3本でした(山間部に強いau!)ので、ペンションに電話をかけて聞いてみました。道順を教えて貰いましたが、どう考えても300メートルでは利かず、1キロ近く道路を歩いたように思います。そのうち次の「曽原湖入口」というバス停に着いてしまいました。
 そのバス停の近くから分岐する道に入り、300メートルほど歩くと、ペンション街の入口があって、目指す宿はそのいちばん奧にありました。最初に電話した時、ペンションのマスターはどうやらバス停をひとつ間違えたようです。思うに、自分自身はクルマ移動ばかりで路線バスなど使うことがなく、客もほとんどマイカーでやってくるので、バス停からの案内に馴れていなかったのではないでしょうか。あとで聞くと、やはり路線バスでやってくるような客は珍しいとのことでした。
 「バスでいらっしゃると伺った時、ああこれは本当に旅好きなかたなんだな〜と思いましてね。クルマで来るのは、あれは本当は旅が好きってわけじゃないと思うんですよ」
 そう語るマスターは長らく横浜近辺で料理人をやっていた人で、宿の向かい側にある「農園レストラン」も経営しています。昼食だけ食べに立ち寄る人も多いとか。季節になると「花のサラダ」もメニューに上がり、実はこの宿に決めたのはその「花のサラダ」をマダムが気に入ったからだったのでした。残念ながらまだ食用花のシーズンには早くて、夕食には出ませんでしたが、料理はとても美味でした。美味なだけではなくて、なんとなくからだに良さそうな感じでもありました。

 このペンションの売りはもうひとつ、エステティックがついた宿泊プランがあることでした。これもマダムにとって決め手になったのでした。およそ1時間で、フェイスエステと、足圧全身マッサージというのをやって貰えます。私たちが着いた時に迎えてくれたのがそのエステティシャンだったので、てっきりマスターの奥様かと思ったのですが、どうもそうではなかったようで、客室の一室を施術室として借りて営業しているらしい。
 マダムはそのエステ付きプランで、私はエステ無しで申し込みましたが、上述の通り、この日は他に客が居なかったためか、
 「ご主人様もあとでいかがですか」
 と足圧マッサージのチラシを渡されました。せっかくなので、やって貰うことにしました。
 スーパー銭湯などと同様、指圧やマッサージのたぐいも、私は結婚するまではいちども経験したことがなかったのですが、やって貰うとやはり気持ちが良いものです。また、毎日のようにマダムにマッサージをさせられておりますので(笑)、いろんな流儀のを試してみたいという気持ちもあります。
 足圧というのははじめてでしたが、さすがに手に較べて押しが強く、施術するほうも楽かなと思いました。マダムのマッサージはこの流儀でやってやろうかしら。
 「腰の骨がスッとまっすぐになってて良いですね〜」
 と言われたので、おやおやと思いました。高校時代くらいに脊椎側湾症の診断を受けたこともあり、自分の背中とか腰とかはひどく歪んでいるものだと思っていたのでした。文章や楽譜を手書きせずにパソコンで作成するようになって、姿勢が矯正されたかな。

 翌朝は起きてから周辺を軽く散歩し、そのあと朝食を食べました。9時頃にチェックアウトし、近くのハーブ園に立ち寄ってお茶を飲んだりしました。曽原湖入口のバス停から、湖に沿った林の中の道を1キロほど歩くと、国民休暇村があり、そこがバスの起点となっています。
 バスに乗って、再び裏磐梯高原駅まで行き、檜原湖の遊覧船に乗りました。ちなみにハーブ園でのお茶も、この遊覧船も、「会津ぐるっとカード」で割引になります。
 40分ほど湖上で過ごし、戻ってきて土産物屋を見たり、団子を食べたりしながら、先へ行くバスを待ちました。
 裏磐梯には猪苗代の他にもうひとつ拠点があります。蔵の街として有名な喜多方がそれで、そちらからもバスが通じているのですが、猪苗代への便に較べるとだいぶ少なく、朝の数便があったあとは昼過ぎまでなくなります。その昼過ぎのバスを待って、喜多方へ抜けました。猪苗代への倍、ほほ1時間かかります。
 喜多方といえば最近はなぜかラーメンがいやに高名になっています。実は私の「こおにのトムチットットットット」は喜多方の小学校で初演したのですが、その頃(約20年前)はまだ、喜多方ラーメンはさほど名が知られていなかったように思います。
 もちろんマダムは、旅の計画段階で、喜多方を通ると言うと即座に、
 「ラーメン食べよう!」
 と叫びました。蔵の街というより明らかに「ラーメンの街」としてインプットされているとおぼしいのでした。
 「会津ぐるっとカード」は、主立ったラーメン屋でも一割引になります。なんと使いでのあるパスでしょうか。

 前の晩、「会津ぐるっとカード」の特典パンフレットを熟読したマダムが厳選したラーメン屋で昼食をとり、そのあと酒蔵の見学などをしてから喜多方駅へ。カードのおかげでJRもフリーパスです。会津若松で乗り換えでしたが、その間に駅弁を仕入れて猪苗代へ向かいました。
 少年時代の野口英世は、幼少時に火傷を負ってくっついてしまった手指の切開手術を受けたあと、自宅のある猪苗代(現在の駅としては翁島のほうが近い)から若松の病院まで、毎週徒歩で消毒に通っていたと言います。片道20キロ近くあり、いまその区間を電車に乗ってもなかなか半端でない距離という気がしますが、その行き帰りという、けっこう手持ち無沙汰な時間に、あれこれと思索を深めたことが、のちの偉業につながって行ったのではないかと思えました。
 猪苗代のバスターミナルから、再び高速バスに乗ります。ゴールデンウィークの旅行というと、帰り道の渋滞でうんざりするのが常ですが、2日の夕方では道路もまだまだ空いていて──というより普段より空いているくらいで──、ほぼ定刻に王子駅前に戻ってきました。
 短い旅でしたが、だいぶリフレッシュできたと思います。

(2008.5.7.)


II

 新型インフルエンザやらETC渋滞やら、大変な話題の絶えなかったこの連休(2009年)も終わりです。皆様はいかがお過ごしでしたでしょうか。
 私はわりと普通に仕事が入っていて、連休だからというのでそれほど休みも取れませんでした。まあ、自由業の宿命ですね。その代わりに、人が働いている時に遊べることもあるのですから、特に文句はありません。
 とはいうものの、家族サービスということもありますので、一回だけ、一泊旅行をしてきました。
 去年の同じ時期に、裏磐梯へ出かけて、とあるペンションに泊まったのですが、裏磐梯観光の拠点となる裏磐梯高原駅というバス停のすぐ近くに、裏磐梯猫魔ホテルという大きなホテルがあります。去年それを見たマダムが、今度はあそこに泊まりたいと申しましたので、今年はそこへ出かけることにいたしました。同じ所へ二度行くのも悪くありません。
 ホテルが良さそうだった他に、交通費の問題があります。目下、いささか不景気な話で恐縮ながら、旅行をするにしても、そんなには費用をかけられない状態でした。ところが、この猫魔ホテルには、東京から直行するシャトルバスが運行されており、それを利用すると、驚くほど安い値段で往復できるのです。
 どのくらい安いかというと──
 裏磐梯への最寄り駅である磐越西線猪苗代まで、新幹線を使うと片道8,700円、東武の特急から乗り継いでゆくと6,480円、JRの在来線を乗り継いでゆくと4,620円、高速バスを使うと4,500円かかります。さらに、猪苗代から裏磐梯高原駅までの路線バスが870円加算されることになります。往復切符や割引切符を使うことで、全体ではもう少し安くすることも可能ですが、概算はそんなものです。
 ところが、シャトルバスを使うと、これがなんと2,500円で済むのでした。しかも猪苗代駅までではなく、猫魔ホテルの玄関に横付けになるのですから、他の方法の半額以下と言って良いでしょう。ちなみにこのバス、追加料金を支払うことで、ホテル宿泊者以外でも利用できます。それでも3,500円で、公共交通機関よりずっと安いのでした。
 これでは、不景気の折り、シャトルバスを使わないわけにはゆきません。
 往復ともシャトルバスを利用することを条件に、宿泊代もいくらか安くなるプランがあったので、それで予約しました。個人的には、旅をする時に、一目散に宿泊地へ行ったり帰ってきたりするのはあまり好まないのですが、僅かに一泊二日で、しかもマダムがホテル自体を楽しみにしているわけなので、ひとり旅の時のような気ままは自制することにいたします。

 さて、バスとなると、ご心配くださるかたもおられたかもしれません。何しろ、連休中はテレビで毎日のように、ETC渋滞で何十キロというクルマの列を見せられておりました。ETC設置車であれば、休日の高速料金が1,000円になるという政府の大盤振る舞い、案が出てきた時には野党やマスコミが、バラマキだの効果無しだのさんざん罵っていたものですが、蓋を開けてみればくだんのごとし。渋滞に巻き込まれた人は大不満でしょうが、人々の行楽欲をあおりまくったのは厳然たる事実で、かなりの経済効果を上げたのではないでしょうか。不況やインフルエンザ騒ぎで、海外へ行く人が減ったのも一因かもしれません。
 ところが、私たちは渋滞にはまったくひっかかりませんでした。
 理由は簡単で、出かけたのが1日(金)2日(土)、つまり平日であったからです。わざわざ狙ったわけではなく、マダムと私のスケジュールを勘案したところ、二日続けて空けられるのがそこしか無かったのでした。ラッキーとしか言いようがありません。1日は普通に平日なのでETC割引もなく、クルマはすいすいと走りました。2日から渋滞が始まりましたが、上り線はまださほど混んでなく、途中立ち寄ったサービスエリアはそろそろ混雑しはじめていたものの、おおむね遅れることなく戻ってきました。
 ただし、2日の午前中の下り便はすでにダメで、ホテル到着は2時間半くらい遅れた模様です。実は下り便が遅れたので、私たちの乗る上り便の発車も遅れそうだったのですが、ホテルから猪苗代駅まで臨時便のバスを出すことで、上り便に関しては解決されました。つまり、ホテルに向かう客と、ホテルから帰る客を、猪苗代駅で交換したわけです。

 1日の9時00分、南越谷駅からシャトルバスに乗り込みました。バスは東京駅から出ているのですが、東北自動車道の入口である浦和インターチェンジに近く、そしてJRと東武の接続駅でもある南越谷でも乗降できます。これも大変ありがたい点で、東京駅発は8時ですから、川口在住の私たちにとっては家を出発する時間に大差が発生します。
 途中、羽生PA那須高原SAで休憩がありました。休憩時間も、公共の高速バスより多少たっぷりとってあって、余裕がありました。ただ下り線の羽生は目下改築中で、売店など仮店舗しか無く、そんな時くらい他のPAに寄れば良いのにと思いました。
 東北道もすいすい走れましたが、郡山からの磐越道は対向車を見ることも多くないほどで、あっさり猪苗代へ。そこから30分ほどかけて磐梯山を回り込み、裏磐梯に着きます。乗車時間は、休憩込みで4時間ほどでした。猪苗代駅で下車した外部の乗客がひとりだけ居ました。
 ホテルのチェックインは15時からですが、シャトルバス利用者に限って到着次第チェックインができます。
 割引があるだけでなく、いろいろサービスがついていました。たぶん宿泊特典としてレンタサイクル4時間無料のチケット、シャトルバス利用プランの特典として1,000円分の食事券、そしてネット予約特典としてワンドリンクチケット。全部ひっくるめるとずいぶんお得と言えます。

 一旦部屋に落ち着いて荷を解きます。桧原湖に面した静かな部屋でした。しばらく滞在しても良い気がしました。
 食事券は翌日の昼食で使うことにして、この日の昼食は外に食べに出ました。バス停の側にある物産館の中にちょっとした食堂があり、去年もそこで昼食をとったのですが、地元の食材を使った、わりにヘルシーなメニューが多かったのです。マダムが今年もその食堂で食べたいと言っていたのでした。
 去年は昼食を食べたあと、ちょうどその物産館の裏手から入る五色沼探勝路を歩いてみましたが、今回は一旦部屋へ戻り、4時間無料チケットを貰ったレンタサイクルを借りて、わりに急いで出かけました。というのは、至急郵便局からお金を振り込まなくてはならない用件があり、この日を外すと6日まで窓口が開いていないと思われるからです。郵送のほうは休日窓口などで受け付けて貰えるでしょうが、振込はゆうちょ銀行の管轄であるため無理でしょう。ATCからの振込もできない額でした。出発前に郵便局に寄ることができなかったので、やむなく旅先の郵便局で手続きをすることにしていたのです。
 ホテルの近くには郵便局は無く、いちばん近いのはバス停ふたつほど離れた場所です。当初、バスで移動するつもりで、実に見づらい磐梯東都バスのweb時刻表を、エクセルで自分なりに使いやすい形の時刻表に編集してプリントアウトし、持ってきていたのですが、自転車が使えるとなれば、そちらのほうが明らかに便利です。時刻表作成に費やした少なからぬ時間が無駄になってしまいましたが、もともとそういう作業は嫌いではないので、まあ趣味に費やしたと考えれば後悔もしません。

 郵便局までは起伏がありましたがおおむね下り道で、ごく短時間で到着しました。振込を済ませ、それから周辺をサイクリングしました。
 去年泊まったペンションの近くにハーブ園があって、マダムがそこを再訪したそうでしたので、行ってみることにしました。桧原湖の周囲には、五色沼以外にもいくつも湖沼群があって、ペンションとハーブ園はそのひとつ曽原湖の近くにあります。
 道はわかりやすく、ほどなく去年バスを下りたところまで辿り着きました。ペンションのマスターが路線バスなどあまり使わない人らしく、電話で指示されたバス停で下りたら、まるまる一区間分手前だったことを思い出しました。その時はずいぶん歩いたものでしたが、自転車は軽々とその区間を通過します。どちらかというと下り坂が多く、これでは戻り道は登り坂ばかりでしんどいのではないかと思いました。
 あっさりとハーブ園に到着し、ハーブティーを飲みました。屋外のテラスにテーブルが並んでいます。風が強いものの、去年より暖かいように思われます。

 ホテルで貰った案内図を見ると、曽原湖の周囲を一周する道があって、自転車も通れそうだったので、そこをまわってみようと思ったのですが、実際に走ってみると、車道は途中で切れて遊歩道のようになっており、しかも凍りついた残雪に覆われているようだったので、断念して引き返しました。それから、去年も歩いた道を通って、休暇村に抜けます。
 不思議なことにさほど登り坂を感じることもなく、元の場所へ戻ってきました。郵便局のある附近は、消防署や学校、出張所なども軒を連ね、観光の拠点である裏磐梯高原駅のあたりとはまた違った、この地域の中心部となっています。
 磐梯朝日国立公園の中ということで、建物の色彩にも配慮されており、おおむね焦げ茶色で統一されていました。ポストなどはもちろん、なんとセブンイレブンの看板すら焦げ茶色になっていて、去年路線バスの車窓から見た時にはあっけにとられたものです。そのセブンイレブンに入って、あまり首都圏では見かけない品物をいくつか買いました。

 そろそろ陽が傾いてきましたが、自転車はもう少し借りていられるので、高原駅まで戻ってから、さらに喜多方方面への道をしばらく走ってみました。こちらのほうは半端なく急坂で、だいぶカロリー消費もできたように思えます。汗びっしょりになって、適当なところで折り返し、ホテルへ戻りました。
 猫魔ホテルは温泉宿でもあり、ひと風呂浴びてから食事にしました。
 ドリンク券を貰っているので、それを使います。私はアルコールがダメなので、ソフトドリンクを頼むことになりますが、「さるなしのジュース」というのがあったので、面白そうなので注文してみました。「さるなし」など聞いたこともありません。漢字で書けば「猿梨」でしょうから、当然梨の一種かと思ったら、案に相違してキウイに類似したマタタビ科の果物だそうです。というか、帰ってから調べてみたら、中国産のシナサルナシニュージーランドで改良した果物がキウイなのでした。ジュースはキウイよりえぐみが少なく、あっさりさっぱりした感じで、とても美味でした。
 食後も温泉に漬かり、マッサージを受けたりして過ごしました。

 翌日の帰りのバスは14時半の発車ということになっていました。先述の通り、下りバスの遅れで、急遽臨時便を出さなければなりませんでしたが、幸いホテルを発つ時刻はさほど違わずに済みました。一般のチェックアウト時刻は11時ですが、シャトルバス利用者は13時まで居ることができ、午前中部屋に荷物を置いたまま出かけてくることができます。バスのセットプランはずいぶん優遇されているのでした。
 それで、磐梯東都バスが運行している周遊レトロバスに乗って、出かけることにしました。横浜かどこかで使われていたボンネット型のバスのリニューアルで、「森のくまさん」なる愛称がついており、その愛称に似合った塗装がなされています。ただのレトロバスではなく、附近の旅館などから出る天ぷら油を精製して作ったエコ燃油で走っているというのが売りです。
 桧原湖を一周するルートもありましたが、少し歩いたほうが健康にも良いので、短いルートのほうで、前日にも自転車で通った休暇村まで行き、そこから桧原湖探勝路を歩くことにしました。五色沼の探勝ほど変化に富んではいないでしょうが、湖を眺めながらのんびりと歩くのは気持ちが良さそうです。
 しばらく車道を歩き、やがて湖畔に出ると、オートキャンプ場がありました。オートキャンプ場があるのでは、クルマが通れなければ意味がないわけです。しかしその先は遊歩道になっていました。山道のようでもありますが、簡易ながら全区間舗装されていたので驚きました。ウォーキング用の靴で来ていなかったので、助かりましたが……
 道端にはコゴミやフキノトウがやたらと生えていて、マダムが
 「これ摘んで行って今夜のおかずにできない?」
 と言いましたが、見た感じ少々育ちすぎて、食用には適さないようです。
 途上、新旧さまざまなキャンプ場がいくつもありました。バンガローがすっかり苔むして廃屋みたいになったところもあり、まだ白木の香りが漂っているようなところもあります。クルマが入れないので、寝具や家具などボートで搬入するらしく、新しいキャンプ場に台所用の棚を運び込んでいるところを目にしました。
 探勝路は思ったより長く、1時間半以上歩いたことになります。ホテルで貰った案内図には3.4キロ、約1時間とあったので、そんなにかかるとは思わなかったのですが、出口近くにあった看板を見ると、6キロとあります。どこからどこまで測って3.4キロだったのかよくわかりません。マダムはすっかりくたびれた様子でした。

 探勝路の出口は高原駅からバス停一区間離れた長峯舟付というところでした。もう少し歩いて、昨日の郵便局の近くにある「3Dワールド」というのに入ってみました。サラウンドの画面に裏磐梯の四季の映像を20分ばかり映し、偏光メガネをかけてそれを見るという、まあよくあるアトラクションですが、時間つぶしにはちょうど良い感じです。
 見終わってから、バスで高原駅に戻り、ホテルでまたもや温泉に漬かりました。もう正午を過ぎていますが、まだチェックアウトしなくても良いので、まったく楽なものです。
 13時ぎりぎりにチェックアウトし、食事券を持ってレストランに入り、ゆっくりと昼食をとりました。
 この時点では、下り便のバスが着かないので、発車が遅くなるかもしれないと言われていたので、昼食後も土産物屋などでのんびりしていたのですが、念のためフロントに行くと、乗客が揃い次第すぐ出るとのこと。私たちが昼食を食べている間に、臨時便を出すことが決定したのでした。少しあわてて乗り込みました。隣のテーブルで私たち以上にのんびりと食事していた夫婦者は、レストランまで呼びに来られたらしく、さらに大あわてで乗ってきました。
 猪苗代駅で乗り換えの面倒はあったものの、高速道路では最初に書いたようにほとんど渋滞せず、スムーズに南越谷駅まで戻ってきました。

 ここで素直に下りて帰宅していれば話は簡単だったのですが、南越谷から東京までどういう道を通るのか、ちょっと興味が湧いたので、そのまま東京駅まで乗ることにしたのが余計だったかもしれません。
 私はそのまま国道4号線を通ってまっすぐ東京駅に向かうものだと予想していたのですが、バスは旧日光街道からなかなか4号線に入らず、やがて外環道にぶつかると、意外にもその下道を通って三郷のほうへ向かいました。えらい遠回りをするなと思っていると、三郷インターから首都高速に入ってしまいました。それならそれで箱崎くらいまで行けば良いものを、向島で下りてしまい、あとは一般道をノロノロと走って、予定より30分近く遅れて東京駅に到着しました。首都高の混みかたでルートを決めたのだと思いますが、どう考えても一般道のほうが渋滞していたようです。
 東京駅から京浜東北線の電車に乗ろうとしたら、その直前に有楽町駅で人身事故があり、しばらく電車が来ないことになってしまっていました。並行する山手線はほどなく動き出しましたが、並行区間の末端である田端まで行っても、京浜東北線の電車が来ないのでは家に帰れません。
 結局、東京駅でも30分以上待たされることになり、帰宅したのは予定より1時間後、南越谷で素直に下りていた場合より2時間半後となってしまいました。ETC渋滞こそ無縁でしたが、これでは仕方がありませんね。

(2009.5.3.)

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