忘れ得ぬことども

カードゲーム「ナポレオン」

 カードゲームの「ナポレオン」というのは日本製で、なかなかよくできたトリック・テイキング・ゲームです。もっと国際的に広まっても良いと思われるのですが、ローカルルールが多いのと、点数計算の概念がないのとがブレーキになっているように感じられます。
 トリック・テイキング・ゲームというのは、コントラクト・ブリッジに代表されるカードゲームの一形態で、基本的には次のような特徴があります。

 ・数人でプレイする。
 ・1ターンに各プレイヤーが一枚のカードを出し、そのカードの強弱を競う。
 ・もっとも強いカードを出したプレイヤーが、そのターンのカードを全部(これをトリックと呼ぶ)自分のものにできる。

 トリックを取ることを目的にするのでトリック・テイキング・ゲームと言うわけです。
 コントラクト・ブリッジの場合、いくつのトリックを取ったかによって勝敗が決まります。取り方によって役がついたりもしますが、基本的にはそういうことです。
 ナポレオンは、コントラクト・ブリッジに多くの要素を借りていながら、かなり独自性のあるゲームになっています。
 まず、勝敗はトリックの数ではなく、絵札(A、J、Q、K、10)の数で決まるという点。絵札の含まれないトリックをいくら取っても勝てないわけです。
 またコントラクト・ブリッジのプレイヤーは4人ですが、そのうちひとりはダミーと言ってプレイに参加しません。ナポレオンではそういう無駄なプレイヤーはおらず、副官という存在が設定され、しかも手札のカードで指名されるために、ゲーム中盤頃までは誰がそうなのかわからないというスリリングな展開になります。またプレイヤーの人数は4人から6人くらいまで融通が利きます。
 カードの強さが単純に数字の大きさだけによらず、いろいろユニークな役札が設定されています。
 その他いろいろ独自な点があり、さまざまな駆け引きも可能で、大変面白いゲームだと思います。私も高校時代はハマりまくり、休み時間のたびに友達とやっていました。
 この上はぜひ、オフィシャル・ルールと点数制を確立して、世界に広めたいと思うのですが……

 ローカルルールが多いとはいえ、基本的な手順はほぼ決まっています。ご存じないかたのために、プレイ方法を簡単に記しますと、

★ディール★
 カードを配ることです。ジョーカーを入れた53枚をシャッフルし、プレイヤーに同数ずつ配ります。4人の場合は12枚ずつ、5人なら10枚ずつ、6人なら8枚ずつになります。剰ったカードは伏せたまま中央に積みます。

★ビッド★
 ナポレオンを決めます。絵札を何枚以上揃えられるかを宣言し、いちばん多くの枚数を宣言したプレイヤーがナポレオンとなります。ビッドには最低枚数が決まっており、4人プレイの時は14枚、5人プレイで12枚、6人プレイで11枚というあたりが普通のようです。
 枚数と共に、切り札のスート(マーク)も宣言します。切り札(トランプ)は、他のスートのカードよりも強く、沢山持っていればトリックを取れる可能性が高くなります。
 同じ枚数の宣言であれば、クラブ<ダイヤ<ハート<スペードの順に強くなります。さらにノートランプ(切り札なし)というのがあり、これはスペードよりも強くなります。私のやったルールではオールトランプ(全切り札)というのもあって、ノートランプより強いのですが、これは知らない人が多く、私のところのローカルルールだったかもしれません。ノートランプ、オールトランプでは、役札の使い方が違ってきます。
 絵札を一枚も取らない宣言というのもあって、私たちは幽霊と呼んでいた記憶がありますが、16枚より強く17枚より弱いくらいのところだったかと思います。

★副官指名★
 ナポレオンが決まったら、ナポレオンは副官を指名します。ただしプレイヤーの名前ではなく、カードを指定します。自分が持っていない最強のカードを指定するのが普通。幽霊の場合は指名しません。誰が副官なのか、指定されたカードが出現するまで本人以外にはわからないという面白さが、このゲームの持ち味のひとつでしょう。
 副官はナポレオンを陰ながら助けて、絵札取りに協力します。ナポレオンと副官以外のプレイヤーは連合軍となり、ナポレオンの絵札取りを妨害します。
 副官を指名したあとで、ナポレオンは中央に残った数枚の積み札を手札に加え、同数の不要な手札を捨てます。これあるがためにナポレオンは、コントラクト・ブリッジの親よりもだいぶ強い立場になるわけです。ただし、副官に指名したカードが積み札の中に入っていたりすることもあり、これまたスリリングな瞬間です。

★プレイ★
 ナポレオンを最初にして、反時計回りに場に一枚ずつカードを出します。最初に出されたカードをリードと言い、あとのプレイヤーはリードと同じスートのカードを出さなければなりません。リードのスートで全部揃えば、その中でいちばん強い数字(Aが最強、以下K、Q、J、10、9……と続く。ただし役札は別)を出した人がトリックを取ります。
 リードと同じスートがなければ、他のカードを出すことができます。この「他のカード」が切り札であれば、トリックを取れます。切り札が二枚以上出たら、強い方が取ります。切り札、もしくは役札でなければ捨て札になります。
 私たちのルールでは、ノートランプの場合はリードにかかわらず強い数字が勝ち、オールトランプの場合はいかなる場合でもリードのスートが勝ち、ということになっていましたが、このあたりは考慮の必要がありそうです。

★勝敗★
 ナポレオンと副官を合わせて、宣言した以上の絵札を取れればナポレオン&副官の勝ち。取れなければ連合軍の勝ちです。幽霊の場合は、一枚でも絵札を取ってしまうとナポレオンの敗けとなります。

★役札★
 さて、プレイに彩りを添えるのが役札なのですが、これらはその種類や強さなどがローカルルールによってだいぶ異なるようです。一応私のところのルールを書いておくと、
 ・オールマイティ……スペードのAで、最強のカード。リードにかかわらず必ずそのトリックを取れる。絵札請求・切り札請求などをされて、出さなければならない状況であれば出さなければならないが、請求者よりも強い。なお、ナポレオンがスペードでビッドした時に限り、クラブのAをオールマイティに指定することができる。
 ・正ジャック……切り札のJで、オールマイティに次ぐ強さを持つ。ただし絵札請求・切り札請求には従わなければならない。
 ・裏ジャック……切り札と同じ色のスートのJで、正ジャックに次ぐ強さ。場に出す時は本来のスートとして扱われるわけだが、同じターンに出た切り札(オールマイティ、正ジャックを除く)よりも強くなる。
 なお、ノートランプの時は正ジャックと裏ジャックの設定は無くなり、オールトランプの時はどのJでも、リードと同じもしくは同色のスートが正ジャック・裏ジャックとして使えるというのが私たちのルールでした。
 ・ジョーカー……リードとして使われた場合に限り、切り札請求となり、他のプレイヤーは切り札を出さなければなりません。その結果オールマイティが出てきた時を除き、ジョーカーがトリックを取ります。ノートランプ、オールトランプの時は絵札請求となります。リードとして使えなかった場合はただの捨て札です。
 ・セイムツー……ターンで同じスートが揃い、その中に2があれば、2を出したプレイヤーがトリックを取ります。この場合、役札の扱いにローカルルールが多いようです。普通は三役(オールマイティ・表裏ジャック)が出てきたらそちらが勝つことになっていると思います。私たちのルールでは、切り札ではセイムツーは成立しないことになっていました。
 ・クラブの3……リードとして出されればジョーカー請求ができることになっていましたが、これはローカルルールかも。

 点数制を導入するとなると、いろいろ考えるべきことがあります。
 プレイヤー全員の点数合計がゼロになるように設定するのが妥当でしょう。そうするとプレイヤー同士で賭けができるようになります。日本では違法だったりするのですが、ギャンブル性のあるゲームの方が普及しやすいのは当然の道理というものです。
 基本的には、まず勝ち点と敗け点を配分するのがよいでしょう。標準的な5人プレイであれば、ナポレオンが勝ちの場合、ナポレオン+2、副官+1、連合軍ー1というところ。ナポレオンが負けならプラスマイナスが逆になります。それ以外の人数の場合はまた考えなければなりませんが。
 ビッドした枚数をゼロとし、それより多く絵札を取っていればその枚数分プラス、少なければマイナスとしたいところですが、ナポレオン・副官・連合軍の配分が難しいところです。
 集めた絵札の内容で役を付けるのも面白いですね。猪鹿蝶月見酒花見酒みたいなもので、うまく作っておけば勝負に負けたのに点数では勝った、などということも起こりうるので、さらに駆け引きの幅が拡がります。同じ数字を4枚集めるとか、できそうでなかなかできない組み合わせを設定するのが良さそうです。ちなみに同じスートを5枚集めるのは、ナポレオン側ではわりと容易なのでこの場合役にはふさわしくありません。
 全トリックを取ることを、コントラクト・ブリッジではグランド・スラムと言い、かなり莫大な点数が与えられますが、これも応用できるかもしれません。一方、ナポレオン側が全部絵札を取ってしまうと、20枚宣言をしていない限り一転して負けになるというルールを採用しているところもあるようです。
 ブリッジなどは世界的な組織があって、ルールなどもそこでオフィシャルなものを選定しています。ナポレオンもとりあえず国内のオフィシャルな組織ができて、点数制などについても検討するようになればよいと思っています。

(2003.10.14.)

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